昼の部

 柴野拓美の本とか読めば書いてあるような内容だし、今度出るというエッセイ集を読めばまあそれで、という事でもあろうけれど、そこで生きて存在して動いている浅倉久志が直に語っている、という生々しさが良かったです。内容はむしろ伊藤典夫伝説。
 企画終了後に若そうな人たちが人名が分からないと言っていたのが印象的でした。

  • 異色作家国内編

 もうちょっと明治文学の話が聞きたかった。
 志賀直哉が日本近代文学の基礎を固めてしまう前に主流になる事無く零れ落ちて言った可能性の中に日本の異色作家的想像力の萌芽がある、とは言えるはずで、その中で日本伴流文学の最大のスタアである内田百�の存在がクローズアップされる、というような流れで。あと。百�の師の漱石は主流文学の本流の人ではそもそもないというあたりも考えないといかんはず。多分、異色作家的想像力の根は想像以上に長く過去まで伸びているはず。

  • ウブカタ企画

 霧島那智のが効率的じゃね、とか思った。
 えーと。
 文芸アシスタントの位置づけがやっぱりよく分からない。
 作家の卵を育てたいならそれこそ若桜木虔榊一郎みたいにカルチャースクールや専門学校で生徒をとればいい。月謝/学費も入って万々歳。上手く共作者に育ってくれればさらに儲けもの。自分の作業を効率化したいんならただデータマンを雇えばいい。小説作法を仕込む手間なんてかけなくていい。
 それをごっちゃにするから辛いんじゃないのかしら。

 微妙に散漫な印象。
 あと、壇上で語られていた一発屋たちの作品は今新刊で手に入らないんじゃないかな、というのがもどかしい。むしろ異色作家の方が手に入りやすいんじゃないか。
 あと。作品内在的な構造の話ばっかしてたんだけど、産業的構造の話をむしろすべきじゃないか、と思った。
 ジョン・W・キャンベル・ジュニアやガードナー・ドゾワやなんかの大物編集者が短編作家として名を成しもした、というのとか関係あるんじゃないかしら。あ、ジュディス・メリルも。

夜の部

  • 移動

 神保町のスカイラークでましう先輩、転、しおり、俺のSF研メンツと前島君id:cherry-3d*1、山田君のMJ-12コンビで夕食。積もる話で盛り上がって、ふたき旅館についた時にはオープニングがはじまるギリギリという始末。

  • 浅倉部屋

 何故かかぶりつきで、大変に緊張した。
 こんなに列席者全員が掛け値なしでゲストを尊敬しているセミナー合宿企画も珍しいんじゃないかと思った。
 色々楽しいお話が聞けたんだけど、俺がどうしても気になっていた件について知りたい人がもう一人くらいはこの世にいる事を期待して、空気読まずにした質問とその答えを書いておく。
Q:ギブスンはどういう経緯で訳されたんですか?
A:あれは「オムニ日本版」からやらないかって言ってきた。ギブスンは好きです。
 一応注釈しておくと、ギブスンの翻訳者としては黒丸尚が有名だけれど、浅倉久志はギブスン本邦初紹介の「クローム襲撃」の翻訳者で、黒丸尚没後に発表された新三部作の翻訳も手がけているし、何せ『クローム襲撃』のクレジットは浅倉久志・他訳だったりする。
 参考。http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/no12_19980225/special4.html
 なお、ギブスンは77年、「アンアース」に「ホログラム薔薇のかけら」を発表してから四年間沈黙していた作家で、81年に沈黙を破ってからも84年までの三年間は短編作家として活躍していた。そういう意味で一発屋の位置に落ち着きかねない作家だったとは言える。悪夢的な感性の作家でもあるし、冲方丁が凝り性って書いてアーティストと訓ずる作家である事も鑑みれば、今年のSFセミナー本会の裏テーマはウィリアム・ギブスンであったとは言えなくもない。

 新城カズマサマー/タイム/トラベラー』について、男性出席者がみな口を揃えて好きだけどジェンダーSFとしては評価しない、と主張していたのが謎だった。
 リストアップした意図はセカイ系作品のジェンダー的な側面について考えたい、という事だったそうな。で、出席者の一人がセカイ系のヒロインは完全に記号化された存在だからジェンダー論でどうこうしたって仕方がない、例えば『イリヤ』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』とか、とまとめてその場は収まったわけだけれど。
 『イリヤ』に関しては何も言わないにしろ『ハルヒ』をそう片付けるのはどうなのていうかセカイ系って具体的にどれの事さ、と思ったけれどキリがないので止めた。
 『ハルヒ』がいかに女性を描けているか或いはハルヒがどれだけ古泉にイケナイ*2興味を持っているのかは項を改めて。

*1:このはてなIDは最早嘘なのでcherry-2dと改名する事を強くオススメしたい。

*2:極めて政治的に正しくない表現である。