つよきす

 ここまでは、原作がよほどの大傑作でない限り、間違いなく秀作と言ってよい水準の作品。ギャルゲ/エロゲアニメ化にまつわるアポリアに美事な回答を提出した、という意味で。
http://astazapote.com/archives/200002.html

攻略対象となる女の子の数と同じ数だけのシナリオが同時に並行的に展開するというシステム

 というアシュタサポテの定義した「ギャルゲー」のありようを巡って、ギャルゲ/エロゲのアニメ化スタッフは煩悶し続けている。同時に並行的に進行するシナリオを持つギャルゲ/エロゲを、時系列に沿って直線的に進行するシナリオを持つアニメにどう翻案するかについて。
 解決策はいくつか知られているが、いずれも
1、1ルートに絞ってアニメ化する
 「ギャルゲー」であったとしても、一人のキャラクターのシナリオだけを取り出し、そのハッピーエンドまでを追いかけるのならば、それは時系列に沿って直線的に進行する作品のそれなのだ、と言う事ができる。
 大変に素直な、作業上分り易い方法では在るが、他のルートの内容を原則的には全て捨象する事になり、原作の要素を生かしきれているとは言えず、他のヒロインのファンにとっては不満も残る事にもなる。
 作例に『君が望む永遠』など。
2、三角関係を軸としてエピソード全体を再構成する
 「ギャルゲー」の主題的な本筋を恋愛的である事に求め、それを軸にキャラクター間の関係を再整理し、ドラマを組み立てる。ギャルアニメ伝統のお当番回システムに、終盤ドラマチックな恋愛事件の解決を付帯させるものでもある。
 ひとまず正解ではあると言えるし、作例にも『D.C.』や『CANVAS2』など、傑作が多い。『ToHeart』もここに含めてよいだろう。
 が、「ギャルゲー」における恋愛とアニメにおける恋愛は、確実に同じくない。
 「ギャルゲー」における恋愛とは「好意が回数で測られる」http://storybook.jp/rst/diary/diary0104.html#11bような類の、シナリオレベルというよりはシステムレベルのものとしてあるのであって、アニメでの対応物を求めるのならばそれは映像の部分になるはずではないか。SNEG、とは、望月智充のアニメを賛美する言葉としてこそ用いられるべきである。
 だから、恋愛性をシナリオレベルに落とし込む事は「ギャルゲー」の構造を理解せぬ所業であるのであって、先に挙げた作例がいずれも傑作である、としても、それは「ギャルゲー」とは無縁、かのアポリアからは逃げたのだと言う外ない。
 そしてこれが「ギャルゲー」風の穏やかな恋愛を描いていたかのように見えてそれらの要素を全てアンチテーゼとしてドラマチックで抑圧的な元鞘展開、男主人公がただのトロフィーになる展開を見せた『CANVAS2』に俺が失望した理由でもあるのだが、それはまあ、いいや。
3、恋愛的な要素を排してエピソードを再構成する
 で、『つよきす』はこれ。
 各ルートのエピソードを直線的に配置しなおすのは2と同じ。だが、その軸に三角関係をは用いない。
 シリーズ全体を統一する仕掛けに何を持ってくるかにセンスが現れるが、ここに素奈緒の演劇の物語を持ってきたのは大変にセンスが良い。
 男主人公の物語を持ってくると、どうしてもシナリオ上で恋愛的な大仕掛けを使わざるを得なくなってきて、それを使わなければなんだか焦点のぼやけた話になってしまうから。
 なんとなく消化不良感が残るな。続く。といいな。