毎年*1恒例*2キモいの。
 のゆきち一年時、と思いねえ。
「なにかしら。今日の大宰くんは勝ち組風だわ」
「人を倉科遼先生の漫画みたいに言うのはやめてくれないか」
「今日は私の誕生日だもの。全ての殿方は負け組と勝ち組に自動的に振り分けられるのよ」
「ああ、氷室さん、今日誕生日なんだ。おめでとう。
 で、その伝でいけば、僕は勝ち組なわけだけれど、甲子園のヒーローだから」
「まあ、なんてきらびやかな紙袋の山!」
「今から一ヵ月後が憂鬱だよ。サクマドロップスというわけには行かないからね」
「いいんじゃないかしら、メッセージカードくらいで。応援ありがとうございます、次のライブは3・19、RUIDO新宿で1daysです、よろしくご来場のほどを」
「まあハコはそれくらいだよね、精々」
「で、私へのバースデープレゼントはいつでてくるのかしら」
「というか、初耳だよね」
「常識、だと思っていたのだけれど」
「どこのさ……。ふぅ。
 ……あ、ソフト部」
「そうね。
 ……ソフト部の子からはもらったのかしら?」
「部長さんから、部員一同で義理チョコは」
「部員一同?」
「なんかね、合同で遊ぶ的な事をね、やってはいたのさ」
「それで部員一同、なのね。……抜け駆け禁止、ていう、ところかしら?」
「どうなんだろうね。まあ、いいよ、うちのソフト部みんな怖そうだし」
「あら、それは酸っぱい葡萄、というものだわ」
「別にそもそも欲しいって思わないっていうか、ずらっと30人並ばれて、さあどうだ、って言われてもさ、覚えきれないよ、正直」
「ふうん。お目当てはキャッチャーの子、ってこと?」
「なんで?」
「見てるわ。さっきから」
「ああ、、それは……なんていうか、彼女は野球部のアイドルだったんだ、一年の間だけで」
「胸?」
「胸」
「そう。誰か突撃はしたの?」
「いや、誰も。ソフト部の子たちとカラオケ、とかって時も来なかったしね、彼女」
「カラオケが嫌いだったのかもしれないわね」
「そうかもしれないね。あと、目がきついじゃない、彼女。それでみんなびびってた」
「あら」
「きっとあれは言い寄ってきた男のナニを切り取って食すタイプさ、とか言ってね、まあ、啓して遠ざける、という感じさ」
「胸を?」
「胸を」
「それはいい傾向ね」
「そうかな?」
「あの葡萄はすっぱいに違いない、の代わりに、あの葡萄はすっぱいとしたらどんな味だろう、と問うのが想像力というものよ。それは実際に葡萄を棒切れで叩き落すことよりもずっと豊かな葡萄との関わり方だわ。なんとなれば、食べてしまった葡萄の味は、想像するわけにはいかないのだから」
「そうだね。……だからといって女の子を猟奇的性犯罪者、みたく陰で言うのはね。どうなんだろうな、とも思うけど」
「彼女が猟奇的性犯罪者でありうること、を、あなたはどんな資格で禁じうるのか、と反問させてもらいたいわね」
「蓋然性の神の名の元に」
「いけすかない勝ち組み野郎だこと」
「その批判は甘んじてうけるしかないかな。事実だし」
「そういうこと言ってると、チョコの数が伸び悩むわよ」
「ひとつ?」
「ええ。義理がたいの、私」
「君は僕の自慢の友人だね」
「ありがと。
 ただ、悩ましいところではある、と思っていて。
 だって、誕生日も知らない女の子にチョコがもらいたい、なんて、図々しいもいいところでしょう?」
「義理ならそういうこともあるだろうさ」
「商業主義を肯定したからって大人になれるわけじゃないわ」
「否定したからってイノセントなままでいられるわけでもないさ」
官僚主義者ね。……そういうことばっかり言ってる人には安い方のチョコしかあげられません」
「二つあるの?」
「ええ。緊急事態に備えて多めに用意するのが乙女の作法というものだわ」
「緊急事態?」
「こちとら花も恥らうお年頃よ? いつ、天啓の如き恋に訪れられるかわかったもんじゃないじゃない」
「想像力豊かだね」
「乙女ですもの。まあ、それで本命用の高いのと義理用の安いのを用意してあってね、結局一目ぼれもしなかったし、貴方に高いほうあげてもいいかな、と思っていたのだけれど」
「誕生日を知らなかったから失格、と」
「そういうこと。高いほうは自分で食べる事にするわ。あ、安いほうもちゃんと大人の味の、ものは悪くない奴だから安心してね。
 ……はい、ハッピーバレンタインデー!」
「……? これ、なんにもないじゃない?」
「ええ、これが、想像力のない人には見えないチョコでございます」
「…………。
 次回、心の目で見れば、山盛り渦巻き茶色い何かが!? に続く!」
「続かないわ」