ゲド戦記

 面白いかどうかはさておいて、よく出来たクレバーな映画でした。
 動きが地味なのは派手な動きを見せる映画ではないと割り切っているから。雄弁な脚本には派手な絵ヅラと芝居が要求されるので、語り過ぎない脚本にする。色彩は統一感を持たせてやることでコントロールする。
 予算規模と制作期間と身の程をよくわきまえて、小奇麗にまとめてきた佳作ではないかと。なので、それ相応に楽しめました。
 宮崎駿の息子と思うと違和感があるが、押井守の身近にいた若者と思えば大変に優秀なんでなかろうか。
 例えばロングのfixで美麗な背景を長回すカット。『ゲド戦記』ではこれ結構多用してるんだけど、原動画よりはクオリティがコントロールしやすく、背景中心の構図の強度への自信と長回す度胸*1さえあれば簡単に余情を生み出せるこの技法、主な使い手が真下耕一だったりするあたり*2、TV向きの止め絵志向の省力化技法なんだけど、こういうのを躊躇なく多用するあたり、動かしたがる父親の方向性にまるで共感していないことが見て取れます。
 全体に、ジブリ的なディティールの少ない絵柄よりもI.G./ビィートレイン/タツノコ的なディティールの多い絵柄でやったほうが見栄えのしそうな画面作りでした。
 ところで多分批判が集中していそうなストーリーだけれど、不可解な点は恐らく三つに集約される。
 1、アレンは何故父を殺したのかと、2、アレンは何故テナーの家を出たのかと、3、テルーが竜だったってそんな唐突な、に。
 1に関しては、なんとなくやっちゃった、なんとなくやっちゃうような若者が主人公の話なんだから問うても仕方のないところ、2についてもそういう若者が暖かい擬似家族から逃げ出さなければ却って不統一、まあ、伏線をもう少しバラ巻いておいて欲しかったところだけれど、それ以上の不可解さはない。3がまあ多分一番よくわからなくて、もうちょっとしつこく伏線張っておけよ、またはここだけはここぞとばかりにクドい作画でごまかせよ、という批判はかなり排除できない。
 ただ、話そのものの無理筋はそれくらい。やっぱり非常に小奇麗にまとまった作品なんじゃないかと思うです。
 あとル=グィンてすっごいうるさ型の作家さんだからね? 自分でメガホン取らない限りどんなんでも文句は言ってたと思うよ。
 影響されてる感想。
http://d.hatena.ne.jp/fu_tokino/20060827

*1:押井の弟子筋ってこれが足りない演出家ばかりな気がするのはなんでなんだぜ。

*2:ゲド戦記』に全体的な印象が一番近い作品は『.hack//SIGN』あたりだと俺は思った。無音基本で音楽がシーンをまたいでつく感じとかも真下っぽい。