長谷敏司『円環少女9 公館炎上』

 そんなわけで更新停止中に触れたよかったものシリーズ第一弾。
 全ては大深度地下に眠っている!
 長谷敏司の地下フェチがさらに取り返しのつかないことになり、仁の人生も取り返しのつかないことになっていく第9巻。
 家族、家族というのは無論「家庭というのは親密さを核にした求心的な共同体ではなく、『そこをいかに傷つき損なわれることなしに通過するか』が喫緊の問題であるような、無理解と非人情をサバイバルの手段とする、離心的な場」*1でありそれは妻夫姉弟兄妹母息子父娘などと称される役割に人を押し込む機能的な組織体なわけですが、仁がきずなとメイゼルとの関係を宙吊りにすることで構築しようとしていた何かは、まあ全く違うわけです。
 仁が今回直面するのは、そういう自らの欺瞞。
 救いはメイゼルに妹を重ねていたわけではないところ。単に、家族とは呼べない/家族である舞花とは違う、と確認しただけ。
 それを確認して自分の欲望に気付いてしまったらあとはもう少なくともきずなに対してはやるべきことはひとつじゃないかと思うけれど、どうなんだろう。
 その一方で、実にまっすぐに世界と自分の欲望の関係を結んでいる変態どもがさわやか。
 で。
 NPO代表。
 別に何も悪いわけはないのになぜだかどこか締まらない肩書き。
 政府秘密機関の係官からNPO代表。その実質は変態の面倒を見るだけ。
 この締まらなさ、悲壮な戦いの現場からいつでも仁を間抜け時空に引きずり込む、日常。かっこつかなくともそれはやっぱりとても大切なことである、という、六巻のテーマが再び。
 現代のヒーローものとしてどこまでも誠実な大傑作。
 読んでない人は今すぐ読んでください。