公野櫻子『ストロベリー・パニック!』3

 私的去年のライトノベルオブザイヤー。
 別にくだくだしく説明しなくても、読んで、少女たちの抱え込まされた事情とそれぞれが辿り着いた境地を追いかけてもらえれば、公野先生が逃げなかった事、少女たちが誇り高く戦っている事は一目瞭然なので、各自確認しておくように。いや、というか、みんな読んで。読んでイヤーブック的なものとかに票入れて。無視されていい作品では絶対にないし、そも公野櫻子抜きで00年代そっち系文化語っちゃダメだから!
 ヘタレ街道一直線の詩遠会長が今回に限り頼もしい、とか、夜々ちゃんの結論は当たり前だけど見落としがちな関係性だね、とか、天音王子も木石ではないんだねとか、千華留様はお優しいなあとか、光莉ちゃんはあんまりにも魔性の女だなあとか、愛せなかったトラウマネタキタコレとか、まあ、色々、全部よいので全部読め。
 静馬様の事情は雁屋哲『黒の鍵』以来の衝撃。上流階級ならばなるほどそういうこともあろう、という意味で、お嬢さま学校の設定を生かしきった、とは言えるのではないか。権力の座に程近い人々を設定することで隠微な権力構造を見事に濃縮して描破している、と言い換えてもいい。女であることの不自由、男のいない楽園の外で待ち構える、婚約者=男=強姦者としての天皇
 そうなると、ごっこ遊びの側面の強い――その事は真箏絡みで要と桃実が懇切丁寧に説き明かしてくれる――アストラエアでの生活の最大の名誉がエトワール選=天皇ごっこである、というのは中々に示唆的であることであります。天皇制的でない空間に関する想像力を彼女達は持てなかったがゆえに、そこから軽やかに逃走した雅姫姉さんは五大スターの永久欠番となったわけですが、そうなると静馬が天皇家との対決を決断してアストラエアに戻った、というのはまさに新時代の幕開けと捉える事ができます。
 ええ、まあ、素晴らしいです。