神楽坂淳『大正野球娘。』

大正野球娘。 (トクマ・ノベルズedge)

大正野球娘。 (トクマ・ノベルズedge)

 えーと、前近代的な婚約者に、大正デモクラシーをくぐって当たり前に「新しい女」な女学生――中島治康苅田久徳世代――が野球で一矢報いたらンかい、女の細腕で何が出来る? オーバーテクノロジーにて、というような。しれっとオーバーテクノロジー――ムービングボールとか高野進のなんば走法とかスパイクとか金属バットとか――を混ぜ込んでくる手管は中々に歴史ファック。野球描写は量的にやや食い足りないものの基本的に間違いはないんだけど、P209のイラストの打ち方じゃ二遊間を抜けるレフト前ヒットにはなんないと思う。二遊間を抜けるレフト前、って外野で球が暴れれば十分あるけど、センター前じゃイカン理由がわからん。三遊間か中堅の間違いではなかろうか。
 舞台が俺が中高と通ってたあたりで、懐かしい地名が続出して楽しかった。フェリスよりも東洋英和、ってのは二十三区の男子校出身者にしかわからん感覚だよな。まあ、ひとつ指摘しておけば朝香中学の野球部は麻布じゃなくて多摩川グラウンドでやってたよ。いつからなんだろう、というようなどうでもいい疑問を抱かれてしまうのが歴史モノの面倒くささだよなあ。どうでもいいのでどうでもよがれ。お願いですから。
 野球のポエム力よりも大正&女学生のポエム力を信じている気配はやや相容れないかなあ、とか思わなくもない、オールドスタイルのユニフォーム着せたい欲、がないとことか。
 フツーに可愛らしい、ややエス大正女学生譚。