べびプリ好きがなんか高まったので、SSを書いた。
 麗×兄。微エロ。
 
「一昨日は南北線に乗ったわ。昨日は大江戸線。今日は、あなた」
 僕のベッドにもぐりこんで、麗は、どこで覚えたのか、ヤングの引用を口にする。
「都営の初乗りは……」
 割高だ、などとは続ける事ができなかった。
 麗は、僕に厳しい。僕につまらない事は言わせてくれない。
 僕の唇にその愛らしい唇で封印をかける。
「今更初乗りでもないでしょう、お兄様」
 お兄様、なんて麗が言い出すのは、いつだってろくでもない事を考えている時だ。前に僕を兄と呼んだのは、道北の廃線跡を見て回りたい、とおねだりをした折。
 うきうきと深川からジェイ・アール北海道バス深名線に乗り込んだ麗は、ひとつ、またひとつと廃駅跡を見るたびに顔を曇らせていき、ついに、幌加内のモニュメント前で泣き出してしまった。
 その日、僕と彼女は、幌加内の宿で結ばれた。麗は、僕の腕の中でも泣き続け、泣くくらいならこなければよかったのに、と言った僕を、大嫌い、と罵りながらそれでも僕を突き放そうとはしなかった。
「品のない。……それに、おっさんくさい。麗の大嫌いな、おじさん」
「あら、あなたはおじさんじゃないでしょう? それに……」
「それに?」
「私のオトコと普通のオトコは違うもの」
 僕の胸板の上で微笑む僕の美しい妹は、なんということだろう、非論理を恐れず、理不尽に寄り添う、幼くしていっぱしのオンナなのだ。
「恣意的な」
「家族でしょ」
「家族はこういうことをしない」
 軽口を叩く僕は、でも、胸に触れる彼女の体温を自分から引き剥がそうとはしない。オンナの――妹の重力圏でおぼれ続ける日々に、僕はすっかり馴致されてしまっていた。
 僕の従順さに、麗は満足したように微笑み、赤い目を濡れ濡れと輝かせて、囁く。
「用土問題ね」
「なに?」
「山手線内から用土駅までの運賃についての問題よ。用土駅八高線無人駅なのだけれど、営業キロ数が計算法によって100を超えたり超えなかったりするの」
「それで?」
営業キロ数が変われば運賃が変わるわ。1620円か、1890円か。実際には1620円で切符が買えるし、それで降りられるのだけれど、営業規則上、この運賃の明確な根拠はないの」
「規則上の明確な根拠のない運用……」
「私たちも……そうじゃなくて?」
「そうかもね」
 麗の繊手は、語る間にも、僕の体をまさぐり続けている。その柔らかなタッチは、麗が確実に僕を愛してくれている証拠の他ならない。
 オトコは嫌い。でも、僕は好き。家族はこういうことをしない。でも、僕たちはする。
 世界の規則から突出した、愛の無秩序。
 今度は僕から麗の唇を奪う。
 僕らは、ひとつに、溶け合う一握の混沌に。
 きっと、事が終わったあと、麗は、僕の腕枕で電車の話をし続けるだろう。
 物憂い僕はその話をあとにして欲しい、と思うけれど言い出せず、鈴を転がすような彼女の美声にいつしか眠りに落ちる。
 麗のリズム、麗の温度。
 真冬の電車みたいに、彼女は僕に心地よい眠りを約束してくれる。
 ありがとう、麗。
 麗がいてくれるうれしさに、僕は麗に口付け、麗を突き上げ、麗を悦ばせる。
 大口を開けたこの世の無秩序の上、僕らが頼れるものは愛しかない。
 それで、僕らは飽きもせず、愛し合い続けた。