鈴木眞哉・藤本正行『信長は謀略で殺されたのか』

信長は謀略で殺されたのか―本能寺の変・謀略説を嗤う (新書y)

　資料の穏当な読解により、光秀はやれるなあと思ったのでぱっとやっちゃったのだ、という穏当な結論を導く穏当な良書。
　数々の本能寺の黒幕説にきっちり反論して回る、その反論も非常に穏当で妥当。
　この本を読むと、結局本能寺の変から山崎の合戦、清洲会議にいたる歴史の流れの中で不思議が集中しているのは中国大返しなのだと思えてくる。
　秀吉があんなすごい勢いで戻ってさえこなければ光秀は摂津・丹波も固めて三好長慶くらいの武威は張れただろう。
　そうなっていたら、織田家の各方面軍司令官はそれぞれどう動いていただろうか。明智政権に合流していたか、地方で自立する道を選ぶか、はたまた毛利、上杉、北条に下る道を選ぶか……。どのみち、色々な展開は十分ありえたのだが、秀吉が毛利攻めから10日で戻る奇跡的な機動により、歴史は一気に豊臣政権成立へと傾く。
　そういう歴史的な偶然の面白さを伝えてくれる。