秋田禎信『誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない』

誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない

誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない

 サブカルチャー的想像力では、就職の問題系は、「既にしている」状態と「まだしていない」状態のどちらかが描かれるのみで、その過程はブラックボックス化されていた、と言っていいと思うのだけれど、その就職に真っ向から切りかかった問題作。
 出てくる企業や人物はみな奇矯で理不尽で、いかにも秋田という面白さなのだけれど、この奇矯で理屈の通じない感じは実は現実に存在する企業体にも多かれ少なかれ存在しているものであって、理不尽に理不尽にも踏み込まされることで決定的な変質を被るという就職活動の通過儀礼性をよく描き出しているとも言える、ある意味生真面目な作品。まあ、秋田作品はいつもそうだけれど。
 ところで秋田作品での奇妙な企業体、といえば、『オーフェン無謀編』のドロシー・マギー・ハウザーの一連のビジネスであり、『閉鎖のシステム』の時計と戦う仕事であって、ビジネスの不思議というモチーフは秋田作品にはそこそこ頻出であるなあと思うのでした。